当専門室を開設してから、約1年8ヶ月が経過した。
やはり根管治療でお悩みの患者さんは非常に多いと感じる。痛みが取れない、腫れが引かない、何ヶ月も治療しているが治らない、など症状は様々だ。
治療のカウンセリングを行う中で、今までラバーダムをしたことがあるかと質問すると、99%の患者さんは「したことがない」と答える。
我々専門医は「ラバーダム無しに根管治療をしてはならない(No Rubber, No Endodontics)」と教育を受ける。
なぜなら、根の病気(根尖性歯周炎)の原因は口腔内の細菌であり、ラバーダムをしないと治療中に唾液を介して細菌が根管の中に入ってしまうからだ。子供でもわかる理屈だろう。
どの歯内療法の教科書にも載っていることだ。
そして、実はその歴史は古い。
Dr Barnumにより、およそ160年前の1864年からその手技は始まった。
世界中の歯内療法学会のガイドラインでも「必須のもの」とされているラバーダムだが、日本での使用率はいまだに著しく低いのが実情だ。
私も卒後に根管治療を本格的に学ぶまでは、その重要性を正直理解していなかった。
私が学生や研修医の頃は、一部の指導医がラバーダム無しで根管治療をしていた。指導医が「ラバーダムなんかしなくても結構治るからね。」と言う。
それを見れば、誰しもが「しなくても良いんだ」と刷り込みされてしまうだろう。今はだいぶ教育が改善されているようだが…
保険診療においても、私が大学を卒業する前にラバーダムの点数は廃止されたそうだ。保険ではラバーダムをしなくていいということなのだろうか。
以前参加した根管治療の研修会で、講師の先生に1人の受講生がこんな質問をした。
「ラバーダムをしないと、どれくらい成功率は下がるんですか?」
勇気のある質問である。講師の先生の答えは、
「空から落ちるときに、パラシュートの有り無しを比較するようなものだから、倫理的に研究対象にすらならないものですよ」と。
ラバーダム無しの根管治療は、その歯の死を意味するということを伝えたかったらしい。
今や獣医師も、動物の根管治療にラバーダムをする時代である。
また、ラバーダムは器具の誤飲や誤嚥を防ぐという大きな役割もある。
治療器具を飲み込んだら、患者さんの生命に関わることすらある。
日本では上記のような様々な事情?により、ラバーダム無しの根管治療が依然、毎日行われている。
ラバーダムをすれば全ての根管治療が成功するのか?といえば、話は別だが、少なくともラバーダムをしなければ成功率は間違いなく下がるだろう。
ラバーダムありの根管治療を受けましょう。