今回の症例の患者さんは20代、男性。
主訴は「左上の歯が、噛むと痛い。1年くらい前に神経を取って被せ物をしたばかり。被せ物を入れる時から違和感は残っていた。」である。
口の中を見ると、ジルコニアクラウンが装着されている。
基本的には患者さんの痛みなどの症状がなくなった時点で、被せ物を入れるのが通常である。
自費診療の高額な被せ物を入れるのであれば、尚更気をつけるべきだろう。
レントゲンを見てみよう。
(術前のレントゲン、CT)
3根管全てに、根尖病変がある。
上顎洞粘膜にも肥厚がみられる。
聞けば当然、ラバーダムはされていなかったようだ。
保険診療で行える根管治療には、様々な制約があるため、時にこのような医原性疾患を引き起こす。
根管治療は、家で例えるなら基礎工事だ。
基礎工事がきちんとできていないのに、良い建物を建てたとしても、決して長持ちはしない。
診査では打診(+)、咬合痛(+)、根尖部圧痛(+)。
治療は再根管治療を提案し、同意されたので治療を行なった。
(術直後のレントゲン)
治療は1回法で終了。所要時間は90分程度だ。
治療後1週間ほどで、痛みは軽減した。仮歯を入れて、6ヶ月ほど経過を見た。
(術後6ヶ月のレントゲン、CT)
全ての根尖病変は消失、上顎洞粘膜も正常に戻った。
一切の症状もない。
ということで、最終的な被せ物に移行することができた。
根管治療は長期間かけて行うものではないということが、お分かりいただけるだろうか。
適切な根管治療であれば、たった一回の治療でも治癒に導くことができるのである。