今回の症例は、ベーシックな根管治療の症例をご紹介する。
患者さんは40代女性。
主訴は「右上と左下の歯に膿が溜まっており、治療は難しいから抜歯したほうが良いと言われた。本当に抜かないといけないのか相談したい。」である。
強い痛みは無いが、噛んだ時に痛みを感じることがあるということだった。
レントゲンを見てみよう。
(術前レントゲン)
右上4
左下5
どちらの歯も打診(+)、咬合痛(+)であり、根尖病変がある。
歯髄は失活状態(神経が死んでいる状態)である。
根管治療を適切に行えば、十分治る可能性がある歯だと思われる。
前医は根管治療をするのが面倒くさかった?、のかもしれない。
根管治療は一般的な保険治療で行おうとすると、材料や治療時間確保の観点から限界があり、きちんとした治療を行うことは難しい。
これは日本の歯科医療が抱えている、大きな問題点の一つだ。
「面倒な根管治療をするより、抜歯してインプラントにした方が、経営的な利点がある」と考える歯科医師が多くなる要因でもある。
話を症例に戻そう。
推奨される治療は根管治療だ。
このように根の先に膿がある場合でも、適切な根管治療を行えば成功率は80%あることが分かっている。
(治療後のレントゲン写真)
右上4
左下5
どちらも1回法で治療は完了する。
所要時間は1時間ほどだ。治療のルールさえ守れば、根管治療は比較的短時間で終えることができるようになった。
我々の歯内療法の分野においても、材料の進歩は凄まじく、それが治療時間の大幅な短縮に寄与している。
治療後6ヶ月で膿は消失し、被せ物は終了。
術後2年のフォローアップである。
(術後2年経過のレントゲン)
右上4
左下5
根尖病変は完全に消失しており、症状は無い。完治と言えるだろう。
このように、歯科医師の得意・不得意によって、歯を保存できるかどうかが変わってしまうのである。
歯科医師の専門性によって、治療のゴールが変わるということも、患者さんには知って頂きたいと思う。