今回紹介するのは、右下6番の治療。
患者さんは30代女性で、主訴は「右下の歯に痛みを感じることがある。体調が悪い時に、何もしなくてもズキズキすることもある。以前治療した時には、次に痛みが出たら抜歯しないといけないかもと言われていた。」である。
右下6番が患歯であり、セラミッククラウンが装着されていた。治療自体は数年前に行ったとのこと。
打診(+)、咬合痛(+)であった。
レントゲンを見てみよう。
(術前のレントゲン、CT)
近心根、遠心根、共に根尖病変がある。
しかし、問題は根管がレントゲンで全く見えないことである。
根管が石灰化を起こしており、根管治療は不可能な状態だ。
問題を解決できるのは、歯根端切除術(逆根管治療)の一択となる。
レントゲンから推測するに、過去にこの歯は断髄治療を受けたのだろう。
断髄治療とは、抜髄治療(炎症が起こった歯の神経を完全に取る治療)の代わりに、部分的に神経を取り、残りの神経を保存する治療のことをいう。
昔からある治療法ではあるが、基本的には乳歯や幼弱永久歯(生えたての永久歯)に対する治療法である。
ここ数年、成人の永久歯にも適応しようとする流れがあるが、合併症としてこのような根管の石灰化を招くリスクがある。
治療を試みる場合は、それも患者さんにきちんと説明すべきだろう。
ちなみに私自身はこのような成人に対する断髄は行っていない。
(治療後のレントゲン、CT)
レントゲン的に仕上がりは問題ないと言える。
被せ物はやり直す必要がないので、ここから経過観察を行なった。
(術後9ヶ月後のレントゲン、CT)
治療前の症状は全て消失した。
根尖病変はなくなり、骨開窓した部位も含めて、完全に歯槽骨が再生しており、完治と言えるだろう。
患者さんも、「抜歯してインプラントにならなくてよかった」と喜んでおられた。
このように石灰化根管でも、歯根端切除術(逆根管治療)という治療オプションがあれば、問題を解決することができる。
大臼歯(奥歯)の歯根端切除術は一般的には難しい治療であるが、これを扱えるのが、我々専門医の強みでもあると言えるだろう。