今回の症例は、上顎洞炎を伴うケースを紹介しよう。
患者さんは50代女性。
主訴は「右上を他院で根管治療したが、痛みが取れない。
右だけ膿のような鼻水が出て、頬の奥の方も痛みがあり、耳鼻科も受診した。歯が原因の上顎洞炎と言われ、歯の治療しても症状が変わらなければ、抜歯をしてもらった方が良いとも言われた。
何とか歯を残すことはできないか相談したい。」であった。
レントゲンを見てみよう。
(術前のレントゲン、CT)
患歯は右上6。右上のこの歯にだけ、打診(+)、咬合痛(+)。
根尖病変は小さいが、右側の上顎洞粘膜が肥厚しており、自然孔(鼻腔との通り道)まで塞がっている状態だ。
典型的な、歯が原因の副鼻腔炎(上顎洞炎)である。
このような症例の場合、原因の歯を特定することが非常に重要で、それにはCT撮影による診査が欠かせない。
主な感染の原因は、MB根の疑いが強そうだ。
前医にて根管充填されてあるが、まともに仮封されておらず、治療中もラバーダムは使用していなかったとのこと。
ハッキリ言うと、これは治療とは言えない。根管の中に細菌を感染させている行為である。
治るわけがないだろう。
推奨される治療は、「再根管治療」である。
当院では
・どこの部位であろうが(前歯、奥歯問わず)
・症状があろうがなかろうが
・再治療であろうが(一般的に再治療は回数がかかる)
根管治療は一回で終了する。
これを可能にしたのは、
・根管治療は一回法でも、複数回法でも、成功率は変わらないというエビデンスがあること
・材料や器具の進歩により、治療の時短が可能になったこと
が理由としてあげられる。
(術後のレントゲン)
根管の中は、かなりの汚染が認められた。
前医で未処置であったMB2も含め、治療は1時間半ほどで終了した。
ここから、3ヶ月毎に経過を観察していく。
(術後3ヶ月のレントゲン、CT)
根尖病変は縮小し、上顎洞粘膜はほぼ正常に戻っている。
歯も、鼻も、全ての症状は消失した。
あとは被せ物を作って、治療は終了である。
患者さんも抜歯せずに済んだことを、大変喜んでおられた。
そう、ルールを遵守して行う根管治療は、これだけの病気を治す力があるということがお分かりいただけるだろう。